世界一の大悪党

最近のぼくはというと、世界一の大悪党になるために日々あくせく働いています。
人をいっちょ前に騙すなんてお手のもの。
首尾よくやれた夜なぞは盛大に祝杯をあげるのです。
けれども、いくらうまくやり過ごしても、現状には満足できず、たいていは退屈するはめになっています。
そこには、ひとつの命題がありまして。
すべてのものを裏切ることが、世界一の大悪党と仮定すると、最後は、自分自身を裏切らなければ成立しないではありませんか。
しかし、自分自身を完全に裏切ることに成功したら、果たしてどうなるのか?
どうなってしまうのか?
あなたは想像したことさえないでしょう。
たとえば、組織のトップは大悪党です。
何故なら、無数の子悪党を従えているので、組織のトップは偽りの含有量が多いのです。
そうして、社長、商工会議所、代議士、国会、内閣と偽りの含有量は膨大になります。
その理論が正しければ、一国の長は当然、大悪党となるのですが、それにしたって、自分自身を完全に裏切る世界一の大悪党である証明にはなりません。
ところで、世界一の大悪党とは悪魔のことでしょうか?
もし、そうだとすると、自分自身を完全に裏切っているので悪魔は自分の意思を持たない存在となるでしょう。
はて。
そうなると、自分の意思を持たない存在なんて大した脅威も感じないではありませんか。
世界一の大悪党どころか、卑小な市民みたいではありませんか。
そうなると、世界一の大悪党の定義を見直して、自分自身の意思を持ちつつ、そのためにあらゆる謀略をなにくわぬ顔で実践する存在と致しましょうか。
どうですか。これこそ、身の毛のよだつような人狼の姿ではありませんか。
その人狼の喜びとは、限りないグレーゾーンで生死をかけて取り引きすることでしょう。
ここまで来ると、もはや美学を感じないではいられません。
ああ。美しき、退屈なこの世界。

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