消えた少年

少年はあの森に入り
もう帰れなくなってしまってもかまわない、と思った。
少年には、家族があったし友だちもいた
なのに、どうしてだろう。
あの森を好いてしまった。
空気の匂い、葉のこすれる音、湿っ気、木陰をいとおしんでしまった。
理由は、それだけだけれど、好いてしまったなら、行動の動機のすべてはそれで十分かもしれなかった。
深い森に分け入っても、少年には道が見えた。むろん、道なき道が見えたのだ。
お気に入りの枯れ葉のベットで彼は森と夜のぬくもりに寝た。
死ぬ恐怖はまるでなかった。毎夜寝ることと同じだと思ったのだ。
朝が来て夜が来て、それが何故だかすごく楽しくて、そこに生きているだけで、しあわせな気がしていた。
お腹が空いたら、あけびや野いちごを取って食べた。山菜も食べた。昆虫も食べた。時々、川でヤマメを捕まえて食べた。木の根っこや草も食べた。
朝晩が冷えはじめる中秋には、寝床の穴はかなり深いところまで掘り進められ、枯れ草のふかふかの中で寝た。
夜にも音が当然あった。夜の音は、ちょうど宇宙のひかりの波長が間延びして奥に広がっていた。
月の遠心力の引き合いを喉から飲むように、広い夜空に吊られて、この星のまるみを両手で抱きかかえるほどに、、、。
少年は十三歳で息を引き取った。

著者