生まれる前のこと

末っ子の弟がまだ幼い頃の話。
弟は不思議なことを口にした。
「ぼくは、生まれる前の世界で本当は先に生まれてくるはずだったのに、おにいに順番追い抜かされて、いちばん後になった。」
口をとがらせて、そう話す。
どうやら、生まれる前の世界でぼくに出し抜かれ、次男がそれに続き、いちばん最後に生まれてきたことが不服らしい。
そんなこと言われてもどうしようもないのだけれど、そう言われてみれば、なんだかそんな気もしてくるのだ。記憶の奥のほうに、そんなやり取りがあった気がしないではない。
順当にいけば、三男が年上だったかもしれないのだ。
なので、その件については責任の取りようもなく、ましてや証拠もないから仕方ないのだけれど、なんとなくいまだに申し訳なくなるときがある。
生まれる前の世界において、ぼくの方がどうしても先に生まれたい動機があったか、あるいは順番を抜かすくらいに生まれ出ることに意欲的だったのだろう。
魂ってのが、本当にあると思っている。

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