春の雨と月

通りすぎる、明るさを一暼して、ぼくは透明になれることを希う。
電車に揺られ、こぼれるように、もたれてくるきみの肩のぬくもりを、ぼくの肩はじんわりと受け入れて、とどまっている。そうして、髪の匂いがほんわり心地よいと、流れゆく車窓の彩りまでも、遥か澄んだ光彩となって粒立っていく。目を閉じると、身体の芯が充血するように、熱っぽい軽さで、息を、そっと通して、引いて、遠のいて。
駅に着くと、きみは目がさめ、ドアが開いて、ぼくはホームを踏み、春の隅々から放たれる、雨の染みた土の匂いにまみれて行く。
話すことは、思ったよりも少なく、むしろ、祈りに似た気配を、並んで、眺められたらと、想い出に、そっと綴じても、伝わりうるかは、心もとない月のよう。

著者