頼りない漂流

とても頼りない漂流がよかった。珈琲を飲みほす前にいつも半分くらい残して冷めてしまっている。文庫本をめくりながら小一時間かけてなくしていく。それも、よい椅子でなくてはいけない。雨のやすらぎは窓を隔てた距離にある。このままでよいのに。このままではいけないというのもわかっている。流れつきたい場所がある。その先にあるものを一生懸命愛して、疲れるのを忘れていく。そのまま、さっきまでのじぶんが誰だったのかは、昔読んだ小説の人格くらいに見做してしまって、いつまでもいつまでも肌の匂いを嗅ぐ生活を続けたり、あたらしい歌に舞ったりする。馴じみのある密度に身を委ねて、ときどきは、血を洗いにいく。声を打ち合って、うずまいてしまう。かわいい言い訳をして、でも、それらまるごと本当のことなのだけれど。正しいことばの正しいうそで、とおくまで、飛んで、おっこちていく。

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