この部屋ともお別れだ。

おれは、多くのものと疎遠になりたくって、なれなかった。
いまもそうだ。
おれは二年間くらいずっと泣いていた気がする。
時間は過ぎる。それは概ね確からしい。
一切に身を委ねるなかで、微小の自己を認めればそれでよい。
猫と小一時間会話したことがあった。
猫がぼくの言葉が分かったとは思えない。
人間にも分かってもらえないことばかりだから。
ただ、その時間は確かに存在した。
その事実だけでいい、と思うこともある。
人ごみのなかに孤独は存在するし
孤独のなかにぬくもりが充ちることもある。
おれは、その濃密なところを吸って、誰にも悟られずに過ごした、それ自体の彩りを今度は、ひとに伝えようと
コトバを綴って暮らしていた。
理由もなく、暮らすだけ暮らした。
最果てにいればいい。
ずっと最果てにいればいい。
最果てにいれば、
それが、理由になりそうだった。
猫になりたい女がいた。
猫になりたい女を好きになりそうだった。
その女を可哀相に思った。
そんなおれはもっと可哀相だった。
海になりたい日もあった。
海のどこが好き?と聞かれても答えなかった。
海が好きだから好きだった。
そんなことばかりだった。
おれはもともとぼくだったし、時々わたしなのだけど
あなたは、きみで、きみはたくさんいて、ひとりだった。
雨を疎遠に思ったことはない。
しばらく見とれていて、ずっと退屈で
それでも終わり方がわからなくて、いつ終わったのかさえ覚えていなくて
やはり、時間を信じることをためらう。

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