おれは、靴を磨くのがたのしくて、いまのおれにはそれ以外、たのしみがない。昨日そんな話をしたら、ミリョウさんはまたそんなこと言ってと苦笑された。前の休みにデパートの靴売り場に行った。すぐに売り子が近寄ってきて、あれこれ紹介しはじめた。買わないことを察するやまもなく売り子は標的をほかに変えた。靴を買うお金がなくて悔しかったので、靴下を買って帰った。お気に入りの靴下に穴が空きかかっていたので丁度良かった。最近、愛するためにはお金が必要だということについて考えている。自分の本当に欲しいものを自分が貯めて払えるギリギリの額を出せるかどうか。愛せるか愛せないかというのを問いかけられているような気がするのだった。中途半端に安いものや安易なものは結局大切に出来なかったのは自分の過去の行いで理解している。貧乏人なりにその時頑張って買った靴はかなり大切に出来ているのも自覚している。つまり、おれは過去に頑張って買ったものは靴くらいなのだった。それを思うと愕然とした。おれは、今までひとやものを本当に大切にできていなかったんだなということも同時に分かった気がしたからだ。それから、急に寂しくて悲しくていたたまれない気持ちになって、一心に靴を磨いた。そして、連日、ひとりで好きな日本酒を飲んで、ひとりで泣いたりしている。自分の好きなものを愛するには、いまだ弱いようで、それができるひとを大人と呼ぶのだろうなと静かに思うのだった。だけど、それって子供の頃はみんな出来ていたような気がするから一寸可笑しい。

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