自分≒ことば

病名をこしらえて楽にしてしまえる日々を抱えているなら、名辞がレイヤーを変え悲劇のヒーローにもすぐなれるだろう。それが自分の弱さから来ると気づくのもわりあい早いだろうけれど、ことばの乱暴な扱いに慣れていない人には悟りを盲目させもするだろう。割れたガラス片にもなり得たり、空白で人を殺せたり、或いはたったワンセンテンスだけで人を救うこともなるだろう。ことばの使い手の産みの苦しみの一部は、たとえば自己の内にそれらを格闘させることだろう。そしてことばで世界を象っていく。ある意味、不遜で、そして非常に困難だから、たいていはそんな危ない橋は渡らない。既製のことばを正しく使うに終始する。けれど、心の声は軒並みそれらにそぐわない。だから、この世界ではたくさんの人々が人知れず老若男女素人玄人関係なく言葉と格闘している。自己と言葉はほとんど同一であるとさえ感じられるレベルまで。

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